【映画】『MEN 同じ顔の男たち』女性蔑視と男性嫌悪を極限まで煮詰めたらデキちゃった。

グロテスク

『MEN 同じ顔の男たち』(アメリカ・2022年)は、アレックス・ガーランド監督による心理的サスペンススリラー。製作に携わるのは、独創的で芸術性の高い作品で知られる配給会社「A24」。監督・脚本は『エクス・マキナ』で知られるアレックス・ガーランド。主演は『ロスト・ドーター』でアカデミー賞にノミネートされた注目の女優ジェシー・バックリー。一人で複数の男性役を演じたのはロリー・キニア。視覚効果(VFX)も多分に折り込み、カンヌ国際映画祭の「監督週間」で上映されて話題を呼んだ作品だ。

夫の死後、休暇のためにイギリスの田舎町を訪れた主人公・ハーパー。なぜか町で出会う男性たちは全て同じ顔をしている。そして森の中を散策中、こちらをじっと見つめる全裸の男を発見してしまう。それから徐々に謎の男たちに追い詰められていくハーパー。同時に彼女は過去のトラウマと対峙することとなるのだった。

特に前半で不穏なのは森の中のトンネルのシーン、ハーパーが反響を使って自分の声で遊ぶシーンだ。木霊して重なり合う声によって作られた旋律は、何か不吉な存在を呼び寄せているようにも聞こえてくる。撮影はイギリスのグロスターシャー州で行われた。森のシーンは幻想的な雰囲気を出すために丁寧に撮影されている。美しい自然の風景であるはずなのに徐々に不穏なオーラを纏っていく。そしてその不穏はハーパーの元にゆっくりと忍び寄る。

その他注目すべき点としては、同じ顔の男性役を演じたロリー・キニアの役柄に合わせた細かい演技の違いがある。彼の演技には同じ顔でも別人として納得させる程の説得力がある。また、象徴的な要素として登場する林檎が大量に木から落ちてくるシーンは、特に注意を払って撮影されたという。林檎の存在が物語の考察をさらに深める要素となっている。

そしてラスト20分間の衝撃の展開を語らずにはいられない。無限出産シーンだ。生々しく、おどろおどろしく、奇怪で気持ち悪い。最終的に生まれたものが彼だったということは、やはり全ての元凶は彼だったのだろうか。考察になるが、この映画は女性から見た世の男性の醜さを象徴しているのではないだろうか。言い換えると、女性蔑視と男性嫌悪を極限まで煮詰めたらデキちゃった映画ではないだろうか。司祭からは女性を偏見で決めつける男性像と、性欲を抑えきれない男性像。警察官からは何も考えずに楽観的な行動をする男性像。そして夫は暴力で支配しようとする男性像だ。男性が女性を見下した言動をする結果、女性は男性を嫌うという図式がこの映画では透けて見える。男性の気持ち悪さが多分に盛り込まれている本作だが、最後に出産された彼が求めるのは「愛」だった。つまり、男性がしていた行動は女性に愛されたいがためのものだったのだ。そう解釈をすると、この作品は男性と女性が分かり合えないという有史以来の問題を暗示しているのかも知れない。

この映画は観客に明確な答えを提示していない。監督は様々な解釈の余地を残すことを意図して制作したという。美しい映像と不穏な雰囲気、衝撃的な展開は、観る人によって多様な解釈や感想を抱かせる。A24とアレックス・ガーランド監督のタッグによる、独創的で挑戦的な作品だ。同監督の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の日本公開にも注目が集まる。

以上。

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