「ゾンビの科学―よみがえりとマインドコントロールの探求―」フランク・スウェイン著 西田美緒子訳
を読んだので、要約して紹介します。
・ゾンビを研究したい人
・生と死の境界について興味のある人
・脳と行動の関係を知りたい人
本の概要
「ゾンビ」は映画やドラマ、漫画などの創作物の中で当たり前のように登場します。
死から蘇り、腐りかけの身体で人間を襲う架空の存在です。
しかしゾンビを架空の存在だと言い切ることはできないかもしれません。
なぜならゾンビに近い状態で生きている人間が実際に存在するからです。
本書では、ゾンビのような状態になってしまった人々や生物の事例がたくさん挙げられています。
それらの事例から、生命を「生」と「死」という2つの状態に分けることの難しさを理解できます。
又、他者を意のままにコントロールするために重ねてきた人類の歴史を知ることもできます。
本書を読むことで、以下のようなことが学べます。
- 薬物によってゾンビになる実例
- 蘇生医療の歴史
- マインドコントロールの実例
- 人間の脳を支配しようとした歴史
- 脳を操る寄生生物の生態
- 「資源」としての人体利用
以下、本書から印象に残った部分を要約しました。
薬物で生まれたゾンビ
1928年、探検家のウィリアム・シーブルックは、ゾンビが実在するという噂のハイチを訪れました。
ゾンビと呼ばれている人間たちはボロをまとって、農園で強制的に働かされていました。
そしてどの人間も死んだような目をしており、ゆっくりと重い足取りで機械のように働き続けていました。
時は過ぎ1980年、何年も前に死んで墓に埋葬されたはずの女性が姿を現したことをきっかけに、ハイチのゾンビについての本格的な調査が始まります。
その女性は、最初に毒薬を飲まされ、生きたまま墓に埋められたといいます。
その後墓から掘り起こされ、サトウキビ農園で強制的に働かされていたと証言しました。
毒薬を調合していたのは、黒魔術を行なうブードゥー教の神官、ボコールでした。
ボコールは当事者たちに「ゾンビパウダー」と呼ばれるものを飲ませていました。
「ゾンビパウダー」を摂取した人間は一時的に呼吸と心肺が停止し、仮死状態になります。
その後仮死状態から目醒めると、意識は朦朧としたまま命令に従うようになるのです。
「ゾンビパウダー」からは、チョウセンアサガオの成分や、フグに含まれているテトロドトキシンなどの人間にとって非常に毒性が強い成分が検出されました。
つまり薬物で脳の機能を著しく低下させることで、従順な奴隷を作り上げていたのです。
ハイチのゾンビは、他者の人権を蹂躙して利益を得ようとする人間が生み出したものでした。
脳を切り取る手術
脳に関する外科手術で最も有名といえるのは「ロボトミー手術」でしょう。
ロボトミー手術は、精神疾患の治療方法としてウォルター・フリーマンとジェームズ・ワッツが確立しました。
精神疾患の患者の眼窩にアイスピックを差し、上下左右に動かして脳の前頭前野の組織を断ち切るのです。
現代を生きる我々なら、この手術がいかに大きなリスクを抱えているかが分かると思います。
手術を受けた患者の半数以上は、語彙の減少、社会機能の喪失、痙攣、半身不随、失禁など様々な副作用が現われました。
しかしながらフリーマンはこの手術を20年以上続け、1940年代から1950年代にかけて3500件以上の手術を行いました。
「待つより手術した方が安全だ」と言い張り、患者の症状が比較的軽い場合でも半ば強制的に手術を施すこともあったといいます。
患者をゾンビのようにしてしまう手術が治療行為としてまかり通っていた事実に恐怖を覚えます。
猫に魅了される寄生生物・トキソプラズマ
トキソプラズマは直径が1万分の一ミリにも満たない微生物で、世界中のどこにでも生息しています。
トキソプラズマにとっての最高の宿主はネコです。
そのためネズミに寄生した際には、ネコに寄生するためにネズミの脳の働きを操作します。
まずは恐怖を司る脳の部位、扁桃体の回路を物理的に切断することで、ネコに対する恐怖心を薄れさせます。
さらに、脳の性的な報酬経路を乗っ取り、ネコに対して性的魅力を感じるようにしてしまうのです。
こうしてトキソプラズマに感染したネズミはネコに近づきやすくなり、捕食されやすくなります。
そしてネズミだけでなく、人間も例外ではありません。
トキソプラズマに感染している人間は、感染していない人間よりも交通事故を起こす確率が2.5倍以上高かったのです。
つまり危険を冒しやすくなったと言い換えることができます。
トキソプラズマは宿主に死にやすい行動をさせることで、その後ネコに寄生しようとしているのではないかと考えられています。
私たちの行動はトキソプラズマによって操作されているのかもしれません。
まとめ
「ゾンビの科学―よみがえりとマインドコントロールの探求―」フランク・スウェイン著 西田美緒子訳
を要約して紹介しました。
本書からは、脳や精神を操ることで人間をはじめとする生物をコントロールしようとしてきた歴史が学べます。
「ゾンビ」は空想上の存在であり、何らかの力で死から蘇った死体です。
しかしながら本書で語られている「ゾンビ」は、
人間としての尊厳を何らかの手段によって奪われてしまった、生命力を感じないゾンビのような状態の人間です。
本書で挙げられている様々な事例から、
人間であるとは何か、自由であるとは何か、生きているとは何か、
について考えることができます。
いつかあなたは「ゾンビ」にされてしまうかもしれません。
「ゾンビ」になったあなたは生きているのでしょうか、それとも死んでいるのでしょうか。
本書を読んで、生きている状態の定義を深く考えてみましょう。
以上、村崎でした!
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