筑摩書房「世にもあいまいなことばの秘密」川添愛 を読んだので要約して紹介します。
言語学の立場から考えれば、私たち人間の発する言葉のほとんどは曖昧で、複数の解釈を持ちます。
しかし多くの人間はそのことに気づかず、自分の頭に最初に浮かんだ解釈を正しい解釈だと思い込んでしまいます。
なので残念なことに、ものの考え方はほとんど変わらないのに、言語の解釈の違いで対立が起こってしまうこともあります。
言葉を多面的に見ることで、相手との言葉のすれ違いを察知できるようになります。
そうすることで解釈の違いによって起こる対立に対処ができるようになるはずです。
本書は言葉のすれ違いの事例を紹介しており、言葉の複雑さや面白さについて理解を深められます。
そして以下のような曖昧な表現の構造について学べます。
本書を読んで印象に残った部分を要約しました。
「止められますか?」―「受け身」「尊敬」「可能」「自発」
助動詞の一つ「(ら)れる」は、意図していない語義と解釈されると非常に厄介です。
「(ら)れる」は、①受け身・②尊敬・③可能・④自発 の4通りの意味があります。
次に紹介するのは、「止められる」という表現のすれ違いのエピソードです。
ある会社の部長が部下を乗せて車を運転していました。駐車場を見つけた部下が「部長、あそこに止められますか?」と言いました。すると部長は「私の運転技術を疑うのか!」と怒ってしまいました。
このエピソードの原因は、部下が「尊敬」の意味で「止められますか?」と言ったことに対し、部長は「可能」の意味で受け取ってしまったことです。
「尊敬」の「られる」は「お~になる」などの尊敬表現に、「可能」の「られる」は「~することができる」などの表現に置き換えると、曖昧さを消すことができます。
「冷房を上げてください」―どの側面のことを言っている?
「冷房を上げてください」
もしこのように言われたら、冷房のリモコンをどう操作すれば良いのでしょうか。
「冷房」という言葉は「冷房出力装置の出力(風速)」を表す場合と、「冷房装置の設定温度」を表す場合があります。
「冷房装置の出力(風速)」を上げると、室温は下がります。
対して「冷房装置の設定温度」を上げると、室温は上がります。
「冷房」という言葉をどの側面を指して使っているかによって、解釈は大きく変わるのです。
「誰の絵ですか?」―自由すぎる「AのB」
「これは誰の絵ですか?」
このように聞かれたとき、あなたはいくつの答え方を思いつきますか?
1つ目は「これは誰が描いた絵ですか?」という絵の作者を尋ねる意味、
2つ目は「これは誰を描いた絵ですか?」という絵に描かれている人物を訪ねる意味、
3つ目は「これは誰が所有している絵ですか?」という絵の所有者を訪ねる意味です。
言語学では「AのB」という形の表現に何通りの意味があるのか研究されています。
しかしながら実のところ、それまでの文脈でAとBの関係がはっきりとしていれば、大抵の「AのB」という表現は通じるといいます。
このことからも日本語の「AのB」という表現が、いかに自由な表現であるかがわかります。
話し手と聞き手の間で文脈が上手く共有されていない場合は、「の」を別の言葉に言い換えて伝える必要があります。
「オードブルって何ですか?」―定義か、詳細か
―フランス料理店での一場面
客「メニューにある『オードブル』って何ですか?」
ウェイター「『オードブル』とは、食事の最初に出される軽い料理のことです。」
客「そんなことは分かってますよ!」
お客さんの方はフランス料理についての知識があり、「オードブル」の言葉の意味を理解しています。
なのでお客さんが聞きたかったのは、「オードブルとして、どんな料理が出てくるんですか?」というオードブルに関する詳細な情報です。
しかしウェイターさんは「オードブル」という言葉自体を知らないお客さんだと思い、オードブルの定義を答えてしまったのです。
お客さんは自分の知識を低く見積もられて、気分を害してしまったのです。
相手がどれほどの知識を持っているのか分からないときは、低く見積もるよりも高く見積もった方が失敗は少なくなるはずです。
まとめ
筑摩書房「世にもあいまいなことばの秘密」川添愛 を要約して紹介しました。
本書では日本語という言語がもつ曖昧さが凝縮されて紹介されています。
複数の解釈ができる例文がたくさん載っており、一つの文を多角的に見る練習ができます。
曖昧な表現を使うことで情報伝達のミスが起きてしまったり、間違った回答を返してしまったりする恐れがあります。
さらに下手をすれば相手の機嫌を損ね、人間関係を悪化させてしまうことも考えられます。
本書を読むと、普段自分がよく使っている表現に曖昧なものはないか振り返るきっかけになります。
常日頃からわかりやすい表現を意識して使うことで、言葉によるすれ違いをなくしていきたいですね。
以上、村崎でした!