雷鳥社「奇想天外な目と光のはなし」入倉隆 について読んだので要約して紹介します。
本の概要
著者は光の見え方や感じ方を扱う「視覚心理学」の研究者です。
視覚心理学は、心理学、光学、工学の横断領域にあたります。
床よりも壁を照らした方がいつもより部屋が広く感じられたり、黄色く熟したバナナは「甘くて美味しそう」だと感じたりすることは、光や色の特性、目の構造によって生まれる心理的な効果です。
本書は目や光にまつわる生物の不思議な事例をたくさん紹介しています。生物のもつ興味深い目の特徴を知ることで、普段は何気なく見ている世界も新たな視点で眺められるようになります。
本書では以下のようなことが学べます。
本書を読んで興味深かった点を要約したので、ご参考にしてください。
目の進化の変遷
目の起源、眼点
太古の動物の目は明るさを感知する器官しか持っていませんでした。
では生物は、どのようにして「目」を獲得したのでしょうか。
生物は単細胞生物から多細胞生物に進化する過程で初めに「眼点」を手に入れました。
「眼点」は光の強弱(明暗)を感じ取ることができる最も原始的な視覚器官です。
「眼点」はやがて「視細胞」に代わり、「目」ヘと近づいていきます。
カメラ眼の誕生
私たち人間の眼は「カメラ眼」と名付けられています。
カメラ眼は物体の形をはっきりと捉えることに適しています。
そして生物の目は、 胚状眼→ピンホール眼→カメラ眼 の順に発達しました。
胚状眼
視細胞が並んだ皮膚の表面が窪み、光の方向を感知できます。窪みが深くなるにつれて、網膜に結ばれる像ははっきりとしていきます。
ピンホール眼
光の入り口を小さくすることで、胚状眼よりもはっきりとした像を結ぶことができます。しかし暗いところでは見えづらいです。
カメラ眼
光の入り口を2枚のレンズで覆うことで、暗いところでもピントを調整できます。そのため、網膜にはっきりとした綺麗な像を結ぶことができます。
目とコミュニケーション
白目でコミュニケーションする人間
人間の目を使ったコミュニケーションの最大の特徴は、「白目が見える」ことです。
人間に以外にも白目を持つ動物は多く存在します。
しかし、それらの動物は外から白目が見えない仕組みになっています。
なぜなら白目があると視線の方向が敵にばれてしまい、命を狙われやすくなるからです。
一方人間は視線の方向をわかりやすくすることで、情報や感情を共有しやすくしたのだといいます。
人間は敵との戦いの有利さよりも、仲間と協調して生きる道を選んだのです。
動物たちの見る世界
透視するカラス
都会ではよくカラスがゴミ袋を破って、残飯を漁っている光景を目にすることがあります。
それはカラスが、紫外線の反射でゴミ袋の中を透視して餌を見つけているからです。
鳥の角膜や水晶体は紫外線を透過するため、カラスには紫外線が見えているのです。
そのため、紫外線をカットする塗料が塗られたゴミ袋などで対策がされています。
迷わないミツバチ
ミツバチは巣から2キロメートル以上離れた場所まで花の蜜を探しに行きます。
しかしそこから迷うことなく巣に戻ることが可能です。
なぜならミツバチは「偏光」を目で見ることができるからです。
光は波で伝わっていきますが、太陽が発する光はあらゆる方向へ振動しています。
対して、振動の方向が揃った波を「偏光」と呼びます。
ミツバチは複眼で特定の振動方向の光を捉え、偏光パターンの違いから方角を割り出しているのです。
見える範囲の限界
視力2.0の壁
人は脳が未熟の状態で生まれるため、視力の発達も他の動物に比べて非常にゆっくりです。
生後間もない人の赤ちゃんの視力は0.02ほどです。
そこから成長と共に視力は発達し、6歳頃までに90%以上の子が視力1.0に達します。
しかし視力2.0を超えることは滅多にありません。
その理由は網膜に並ぶ視細胞の密度(間隔)が関係しています。
視細胞と隣の視細胞の間隔は、およそ2~3マイクロメートルです。
そして視力検査の際に視力2.0を測定するためのランドルト環の切れ目の幅は0.7ミリメートルですが、
網膜に映る際の切れ目の幅はおよそ3マイクロメートルです。
つまり視細胞の間隔とほぼ同じです。
なので光を捉えるセンサーである視細胞よりも間隔の細かい像を見分けることは、非常に困難になります。
一般的な視力の上限が2.0になるのはこのような理由からです。
自分の肌の色味
人間は、自分の肌にほとんど色味を感じていません。
つまり、日常生活において多くの人間が自分の肌の色を無色であるように捉えているといいます。
しかし、他人の肌の色には非常に敏感です。
特に人種が異なるとその傾向が強く現れます。
自分を基準として、それと異なるものに対しては敏感になるようにできているのです。
また、他人の肌の色に変化があれば、相手の感情や体調の変化をすぐに察知できます。
まとめ
雷鳥社「奇想天外な目と光のはなし」入倉隆 を紹介しました。
本書では光と目の関係がわかりやすく噛み砕かれて説明されています。
興味深い内容の上に1セクションが短いため、読み進む手が止まりませんでした。
本書なら科学が苦手な方でも、抵抗なく読んで理解することができるでしょう。
そして本書以上に生物の目に隠された秘密を知りたくなること間違いありません。
本書は誰かに話したくなるような知識で溢れています。
生物に関する知的好奇心をくすぐる、おすすめの一冊です。
以上、村崎でした!